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2014/12/09 (Tue) 10:00

九州大学 旧船舶海洋工学実験室

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九州大学 旧船舶海洋工学実験室
(旧 工学部造船学実験室)

福岡市東区箱崎6丁目/1921年/煉瓦造平屋建
設計:倉田謙 施工:岩崎組

箱崎キャンパスの東端付近、大通りから一歩入った場所にある赤煉瓦の建物。旧造船学教室(1983年解体、現存せず)に付属する実験棟として1921年に建てられた、旧船舶海洋工学実験室です。工学部が伊都へ移転してからは一時期倉庫として使用されていたようですが、現在は閉鎖されているとのこと。

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北東方向へ長~く伸びたL字型の平面構成で、平屋建てながらそこそこ規模の大きな建物となっています。

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外観上のアクセントとなっているのが、建物の数か所に設けられた破風。

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中央に半円アーチの換気口を配し、周囲のモルタル壁には模様が施されています。

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また赤煉瓦の壁面に水平ラインを巡らせる形で、一部に鉱滓煉瓦が使用されているのも特徴です。

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ちょうど窓の上下(まぐさ・窓台)と同じ高さに当たる部分と足回りという配置、それに赤煉瓦との色彩の対比から、少し前の時代で多用されていた石材による装飾への意識が窺えます。当時としては新しい素材だった鉱滓煉瓦を用いて、従来のデザインを表現することを試みたのでしょうか。

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ほか、主なデザイン要素として控え壁頂部の装飾が挙げられます。錆びが浮いていることから金属製だと思われますが、他ではあまり見かけない種類の装飾ですね。

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その内いくつかは老朽化によって剥落してしまい、中には代わって松の木が生えている箇所もありましたが…

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今年訪れた際に再び確認してみると、松の木は装飾ごと取り払われていました。

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屋根は和瓦葺きの寄棟造。ここでも一部で老朽化が進んでいるのか…

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今年の訪問時、このように棟部分の瓦が取り外された箇所が見られました。とはいっても保存が決まっている建物ではないので、補修の予定があるのかは分かりません。

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ちなみに破風部分は割と新しい屋根材(鉄板?)となっており、比較的最近に葺き替えられているようです。

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窓はほとんどアルミサッシに交換されていますが、一部に木枠のものが残っています。

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建物の奥までやって来ました。こちら側の面には木製の窓格子も付いています。

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恐らく庇を備えた出入口だったと思われる痕跡も。まだ藪が生い茂っている時期だったので、近づけませんでした。

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表側に戻ります。

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建物を西側から。この写真は先月の撮影ですが…

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2年前はこんな感じでした。建物の周囲に生えている木々が、この2年の間に伐採されていることが分かります。

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接近。こちら側の出入口から渡り廊下が伸びています。

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その延長線上、旧工学部5号館(普通のビル)の裏側に当たる場所から建物を見る。旧工学部5号館は旧造船学教室の跡地に建てられており、アングル的にはかつての造船学科の教室から実験室を見た光景と一致します。

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現在渡り廊下は途中で途切れていますが、恐らくもともとは教室の建物と接続していたのでしょう。

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そうした点を踏まえると、一応この出入口が正面玄関ということになるのでしょう。物件リストに敢えてあの写真を使用したのも、こちら側を建物の正面と考えてのことです。

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正面玄関の頭上にはお馴染みのプレート、番号は「五十八」。

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ちなみに渡り廊下には「六〇」のプレートが付いています。

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正面玄関から左に回ってすぐの側面にも出入口があり、竣工当時のものと思われる木製の扉が残っています。

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突き当りにも庇を備えた出入口。

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その左奥には小屋が建っていました。なお、小屋そのものが本当に傾いているのであり、いつものごとく写真が傾いている訳ではありません。

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周辺の草刈りが行われるなど、閉鎖建物にしては割と管理されているような印象も受けます。ただし建築から90年以上が経過しているため、それなりに老朽化が進んでいることでしょう。保存に向けては安全性の調査と再開発事業者との協議、この2つをクリアすることが必要とのこと。近代建築好きのみならず、多くの人々に好まれる赤煉瓦の建物なので、安全性さえ確保できれば保存の可能性は比較的高いと思われます。

以上、旧船舶海洋工学実験室(旧称・工学部造船学実験室)でした。なお当建物と渡り廊下で接続する2棟の木造建築については、後日改めてご紹介します。

【関連リンク】
九州大学・大学文書館 > ギャラリー > 写真目録九州帝国大学時代(検索結果:造船学教室)
…記事中で述べた旧造船学教室の在りし日の写真が見られます。平屋建ての実験室とは異なり、2階建ての立派な建物だったようです


(撮影年月)

・2012年
 2月)001
 11月)002~004
・2014年
 9月)005~021
 11月)022~031

【関連ページ】
九州大学箱崎キャンパスの近代建築

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