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2015/04/28 (Tue) 10:00

九州大学 農学部2号館別館


九州大学 農学部2号館別館
(旧 農林生物物理研究棟)

福岡市東区箱崎6丁目/1927年/鉄筋コンクリート造2階建

農学部6号館の右隣、木々に包まれて佇む小さな建物。あまり知名度の高い存在とはいえませんが、『福岡の近代化遺産』によれば竣工は1927(昭和2)年と意外に古く、九大のRC造建築では初期の作品にあたります。農学部の農林生物物理研究棟として建てられ、現在は同学部2号館の別館となっています。

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訪れた時期が悪かったこともあり、建物の全体像がうまく撮影できなかったので、ファサード(南立面=農学部6号館側)の簡単なイメージ図を作ってみました。きちんとした立面図に基づいたものではなく、また一部は想像で補完しているため正確なものではありませんが、このイメージ図と写真とを見比べつつ記事を読み進めて頂ければと思います。

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それでは建物を見ていきましょう。これは表通りから見た様子で、ほとんど草木に覆い隠されていますが…

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僅かな切れ目を見上げてみると、黄土色のタイルで飾られた頂部が辛うじて確認できます。これは建物の角の部分。柱型が斜めに張り出しています。

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表通りから一歩入り、農学部6号館の右側面を背にして撮影。ここでようやく全容が見えてきます。



そして冒頭の写真。2階の左端(ベージュ色の部分)は恐らく木造による増築で、当初は旧農学部発電所(1929年築)のようにバルコニーが存在していたのではないでしょうか。

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規模や骨格といった全体の雰囲気でいえば、最も近似しているのは旧河海工学実験室(1925年)だと思われます。ただし形状は全くの箱型であり、外観を大きく印象付ける塔屋は備えていません。屋上へは2階窓から玄関上のハシゴを伝って上るようです。

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外壁はモルタル洗い出し仕上げ。これにタイルを併用するのは旧心理学教室(同年竣工)などと一致する手法です。一方でレリーフ装飾は用いられておらず、また柱型に加えて各階の梁にあたる部分を露出させるなど独特な意匠も見られます。この辺りのデザインは、どちらかといえばモダニズム寄りであるようにも思えますね。

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玄関。もともとシンプルな造りだったようですが、扉や庇を交換する以前の姿が少し気になるところ。

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足回り。柱型は各窓の間に1本ずつ施されています。足元は基礎と一体となっており、ここから2階窓の上まで伸びているのですが…

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正面向かって右側、端(建物角)から数えて2本目の柱型は何やら仕様が異なります。

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方形ではなく台形の断面で、1階窓と同じ高さから伸びており…

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2階で途切れることなく頂部まで達しています。初めは「柱型を兼ねた煙突なのではないか」と思いましたが、写真を見返すと向かって左側の旧バルコニー部分(?)でも採用されているようなので、純粋にファサード両脇を飾る目的で仕様を変えたのかもしれません。

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側背面へ回ってみると、柱型(通常仕様)の先端に建物頂部と同じタイルが張られていました。恐らくこれが当初のスタイルであり、ファサードでは後に何らかの事情で失われてしまったのでしょう。先程のイメージ図をもとに当初の姿を復元するならこんな感じでしょうか。

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とりあえず建物を一周してみたもののご覧の有り様で、とてもじっくり観察できるような環境ではありませんでした。できればスチールサッシの現存状況やグリルの有無まで確認したかっただけに、冬の間に再訪できなかったのが悔やまれます。

とはいえ今回取り上げた一部の外観だけを見ても、デザインに気を配った良質な近代建築であることは十分に伝わるかと思います。また設計者は不明とのことですが、竣工年や他の同時期の建物との類似点を踏まえると、やはり九大の初代建築課長(1918~1929年)である倉田謙が関与しているのではないでしょうか。仮にそうだとすれば氏の晩年の、それも独特の作風が光る作品として、それなりに貴重な存在だといえます。

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しかし当建物は保存への検討はおろか、その土台となる有識者調査(2012年)の評価対象にさえ選ばれていませんでした。同調査の報告書には“30カ所の近代建築物を現地調査対象物件として、…、評価に値する対象建築物を24棟に絞り込み” との一節があるので、どうやらこの建物は「評価に値する建築物ではない」と判断されたようですね。

九州大学箱崎キャンパスにおける近代建築物の調査ワーキンググループの評価報告 (PDF)

個人的な好みも影響していますが…素人目には良質な近代建築と映るだけに、なぜ識者の方々におかれては評価に値しない建物となるのか気になって仕方ありません(嫌味ではなく、純粋な疑問)。いずれにせよ、今となってはキャンパス移転後の解体撤去は避けられないものと思われますが、せめて木々に包まれていない建物の姿を一度は見せてほしい、と考えてしまうのは私だけではないはずです。

以上、農学部2号館別館(旧称・農林生物物理研究棟)でした。

【関連リンク】
九州大学・大学文書館 > ギャラリー > 写真目録九州帝国大学時代(検索結果:農学部農芸化学科教官学生)
…現・農学部6号館にあった農芸化学科の記念写真。背後に竣工して間もない頃の当建物(右側面=表通り側)が写っています


(撮影年月)

2014年9月)001~013
2014年11月)014

【関連ページ】
九州大学箱崎キャンパスの近代建築

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