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JR諫早駅 旧駅舎  


JR九州 諫早駅旧駅舎(旧 鉄道省諫早駅駅舎、移転済み・現存せず)
長崎県諫早市永昌町1-1/1935年頃/木造平屋一部2階建/2016年夏解体

中規模木造駅舎シリーズの最終回は、JR長崎本線の諫早(いさはや)駅の旧駅舎です。昨年9月の訪問当時はまだ現役だったのですが、九州新幹線西九州ルートの建設工事により、今年6月に仮駅舎へ機能を移転。旧駅舎は残念ながら解体されてしまいました。当記事では昨年の訪問時点、すなわち現役時代の旧駅舎の様子をご紹介します。

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1898(明治31)年秋、九州鉄道長崎線は前回の大村駅への延伸から1年足らずで全通を迎え、諫早駅もその中間駅の一つとして開業します。国有化後の1911(同44)年に私鉄の島原鉄道が当駅まで開業、34(昭和9)年には有明線(肥前山口~当駅間)が全通して現在の長崎本線となり、旧長崎本線の大村線と合わせて3路線が乗り入れるターミナル駅に成長しました。今回紹介する駅舎は鉄道省時代、有明線の建設を機に建てられたもので、全通翌年の1935(昭和10)年に供用を開始しています。

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大村と同じく旧城下町・宿場町だった諫早は、近代に入ると国際観光地・雲仙への玄関口としての性格を帯びてきます。雲仙は東アジア在住の欧米人の避暑地として明治期から発展。さらに昭和初期には西日本国際観光ルート(※)の経由地に組み込まれ、また諫早駅を拠点とした乗合自動車(バス・タクシー)の運行も盛んになっていました。恐らくそうした事情が背景にあり、広い駅前広場と軒下空間を有する駅舎に建て替えられたのでしょう。

※…神戸から瀬戸内海航路で別府に入り、阿蘇・熊本・雲仙を経て長崎へと至る、西日本を縦断する周遊経路。外貨獲得・国際収支改善のために外国人観光客の誘致を進めた国際観光政策の一環として設定され、既存の国際観光ルート(横浜~神戸)を延長し、外国客の滞在日数を増やす狙いもあった。同時期には豊肥本線の全通(1928・S3)や、長崎本線の長崎港延伸による上海航路との接続(1930・S5)、雲仙観光ホテルの開業(1935・S10)など、ルート形成に向けた交通機関・宿泊施設の整備が進められている

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駅舎は線路の東側に並行する木造平屋建て。中央部を一段高い半切妻造とし、左右に切妻造の落棟を付けた凸型のファサードで、左端(南側)には2階建ての別棟(旧事務所?)が連なります。正面の庇に付く2つの切妻破風が目を引きますが、これらの破風は民営化後のリニューアルで新たに設置されたもの。では、それ以前はどのような姿だったかというと…

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※稲門歯科医院のホームページ稲門歯科医院 > 鉄道写真館 > 諫早駅より、著作者の許可を得て転載

特徴を捉えたこちらの写真(1978・S53撮影)をお借りしました。正面庇は細い鋼材(古レール?)による片持ち式。屋根は中央と左手の落棟が赤茶色の洋瓦(フランス瓦)葺きで、煙突や棟飾りが付きます。外壁はモルタルで腰回りに石を、高窓を除く開口部の周囲にはスクラッチタイルを張っているようです。華美ではないものの味わい深い、シックな雰囲気の洋風駅舎だったことが分かります。

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旧状と比較しつつ建物を見ていきましょう。正面玄関はリニューアルに際して設けられたもの。主棟だけで見ると左手(南側)に寄っていますが、別棟を含めた全体としてはほぼ中央に位置しており、また両脇に切妻破風を配することでバランスを取っています。

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その右脇(北側)、切妻破風とタクシー用のテント屋根が一続きになっている箇所が、かつての正面玄関にあたる部分。出入口の幅が狭いうえ改札口の対角にあり、また駅前南側に店舗が増えたことから、メインの座を譲る形となったようです。

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内部。現・正面玄関より入って目の前に改札があり、右手が窓口・券売機・事務室、左手が店舗と分かれています。天井は非常に高いものの、乗客数では長崎駅に次ぐ県内2位というだけあって、少々の窮屈感は否めません。反面、学生をはじめ若い世代の姿が目立つこともあり、中々に賑やかな印象を受けました。

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再び外観に戻ります。先の写真では庇の下にある(=人目に付く)開口部にのみスクラッチタイルが見られたので、正面の庇は後年の設置ではなく、竣工当初から存在したのでしょう。またリニューアルの際には従来の骨格を維持しつつ、表面を部材で覆ったり、破風や支柱を追加したりしているものと思われます。庇と窓回りには何やら模様が巡らされていますが、当初のスクラッチタイルによる縁取りを意識したデザインでしょうか。

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軒回り。

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落棟の妻壁にはハーフティンバー風の装飾が施されています。内外ともに改装・補修が重ねられた状況で、竣工当初の面影を残す唯一といっていい意匠でした。

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改札内も少しだけ。構内は3面5線で、2~4番のりばとは地下道で連絡します。

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駅舎に面した1番のりば。下屋・上屋の骨組みは古レール製。

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1番のりばの反対、駅舎南側に位置する0番のりば(島原鉄道)より、2階建ての別棟を見る。

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再び駅前より。1階にはミスタードーナツが入居し、隣接してケンタッキーもありました。これらも仮駅舎への移転に伴い閉店しています。

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最後に駅前の風景を。駅前交差点を中心に、駅から見て右手前に商業ビル、右奥に諫早バスターミナル、左奥に諫早ターミナルホテルが立地しています。

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商業ビルには1982(昭和57)年の開業以来、大手総合スーパー「西友諫早店」が入居していましたが、残念ながら昨年4月末に閉店・撤退。訪問時は空きビルとなっていました。

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こちらは長崎県営諫早バスターミナル。1969(昭和44)年の国体開催に合わせて開業したもので、2階はショッピングセンターとなっています。ちなみに隣接する諫早ターミナルホテル(1978・S53開業、写真左奥)は島原鉄道の所有で、当初は島鉄バスが発着するターミナルが存在しましたが、県営バスの路線の一部縮小に伴い、2007年4月より県営ターミナルへ統合されています。

九州鉄道による明治後期の鳥栖駅、鉄道院による大正期の大村駅、そして鉄道省による昭和初期の諫早駅。同じ日に3つとも回ったため、それぞれの類似点・相違点が見えやすく、とても楽しめましたが…かれこれ一年近くネタを溜め込んでいる間に、諫早が過去帳入りしてしまったのは少々心残りです。以上、JR諫早駅の旧駅舎でした。


(補足…阿蘇・三角駅舎との類似性と西日本国際観光ルート)

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▲阿蘇駅(JR豊肥本線/熊本県阿蘇市/1934年/木1) ※2014年1月撮影

旧諫早駅舎に類似する事例では、JR豊肥本線の阿蘇駅(旧・坊中駅)と、JR三角線の三角駅の2つが改装されながらも現存しています。いずれも鉄道省による1930年代の駅舎で、半切妻屋根は当初フランス瓦で葺かれ、またモルタル外壁も腰回りのみ仕様を変えていた点が共通します。もちろん建築主が同一で竣工時期も近いとなると、外観の特徴が多少似通っていたとしても全く不自然ではありませんが…実は、これらの駅は先述した「西日本国際観光ルート」とも大いに関係があるのです。

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▲三角駅(JR三角線/熊本県宇城市/1938年/木1) ※Googleストリートビューより

関西から別府・阿蘇・熊本・雲仙を経て長崎へと至る西日本国際観光ルート。その中で別府・阿蘇・熊本を結ぶ豊肥本線と、航路・陸路と合わせて熊本~雲仙をつないだ三角線は、いずれもルートを構成する主要な経路に位置づけられていました。しかも、阿蘇駅は阿蘇山上へ向かうバス路線に、三角駅は雲仙へ向かう三角~島原航路にそれぞれ接続する駅。雲仙からの陸路と長崎への鉄路をつないだ諫早駅と同じく、省線(鉄道省の路線)と他の交通機関の結節点としての役割を担っていたのです。

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そればかりか、国際観光政策の中心となった行政機関「国際観光局」は鉄道省の外局、ルート選定などにあたった「国際観光委員会」は鉄道大臣の諮問機関であり、当時の政策自体がそもそも鉄道省の主導によるものだったというオマケ付き。ひょっとしたら阿蘇・三角・諫早の3つの駅舎は、西日本国際観光ルートの形成という一連の流れの中で生まれた、姉妹作品ともいうべき存在なのかもしれません。


【撮影年月】
 特記なき限り、2015年9月

【参考文献】
『諫早近代史』諫早近代史編修委員会/諫早市/1990年
『近代日本の国際リゾート:1930年代の国際観光ホテルを中心に』砂本文彦/青弓社/2008年

【リンク】
稲門歯科医院 > 鉄道写真館 > 諫早駅(写真転載元)
モノフォトショップ 添田カメラ > 国鉄の駅 in 九州 > 長崎本線、肥前麓~長崎間 > 諫早駅
【JR全駅掲載】さいきの駅舎訪問 > 現役路線の駅舎 > 長崎線 > 諫早駅
毎日新聞 > 九州新幹線:ご苦労さま、諫早駅舎 被爆者救援、大水害…苦難の歴史見守る 開業に向け、建て替え工事あす開始/長崎
諫早駅(Wikipedia)

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