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直方谷尾美術館  


直方谷尾美術館 本館(旧 奥野医院)
福岡県直方市殿町10-35/1941年頃/木造2階建 ※国登録有形文化財、経済産業省認定近代化産業遺産

かな~り間が空きましたが…一昨年8月に訪れた直方市の街並み(⇒記事)より、改めて紹介いたします。直方谷尾美術館の本館です。

もともとは奥野医院(1913・T2開院、皮膚科)の診療棟だったもので、火災で焼失した先代の建物に代わり、1941(昭和16)年頃に建てられました。医院は平成に入って閉院しますが、明治屋産業*1 創業者の故 谷尾欽也氏が、同社の設立20周年を記念して購入・改装し、92(平成4)年に私設「谷尾美術館」をオープン。氏の死去後に遺族より市へ寄贈され、2001(同13)年から直方市美術館、通称「直方谷尾美術館」となって現在に至ります。

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※グーグルマップより引用・加工。画像クリックで当該ページへ移動

敷地は旧長崎街道から裏道まで伸びた細長い形で、寄棟屋根・鋼板葺きの建物が旧奥野医院。後方(東側)に連なる和風建築は、同時期に建てられた院長の住宅と茶室です。現在は旧医院を直方谷尾美術館の本館とし、同1階と南側の新館(1998・H10増築)を展示室、また旧院長宅を収蔵庫として使用しています。ちなみに旧医院・住宅・茶室の3棟は、2013(平成25)年にそれぞれ国の有形文化財に登録されました。


<外観・正面>

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それでは直方谷尾美術館本館、旧 奥野医院の建物を見ていきましょう。まずは旧街道筋に西面するファサードから。基壇・胴部・頂部による三層構成を基本とし、中央にポーチ付きの玄関を、左右に窓を2列ずつ設けた端正な外観です。

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玄関ポーチは古典的なデザイン。両隅にコンポジット式*2 風の円柱をあしらい、上部にはアカンサスの葉を巡らせています。

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窓はいずれも欄間+上げ下げ式による彫りの深い縦長窓です。中央2階(ポーチ上)のみ方立で仕切られた3連窓で、その他は1・2階と一続きになって垂直性を強調し、スパンドレル*3 に植物を象ったレリーフを配しています。

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外壁は亜麻色の二丁掛けタイル張り。ひと昔前の赤煉瓦や小口タイル、また同時期に流行したスクラッチタイルに比べて幾分こざっぱりした印象を受けます。この建物では安定感のある重厚なデザインがベースとなっているので、全体の雰囲気が重くなりすぎないように、敢えてこのようなタイルを用いたのかもしれません。

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<外観・側背面>

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次に、右側面から背面にかけて見ていきます。もっとも現状では右隣の新館に遮られてしまい、外部からはほとんど窺えないのですが…係員の方のご厚意により、通常は非公開の中庭へと入らせていただき、幸運にも見ることができました。

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案内されたのは館内の一角、新館との接続部分に設けられた小さな扉。普段は施錠されていますが、ここから建物の間を通り抜け、背面側にある中庭へ出られるようになっています。扉を開けると、ちょうど目の前に右側面が。

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1階では大きなアーチ窓が連続する一方で、2階には矩形の単窓と2連窓が併用されており、縦長窓が整然と並ぶファサードとは趣を異にしています。眼前に迫る風変わりな外観に、のけぞったり首をかしげたりしながら進んでいくと…

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思わず息を呑みます。何だこれは!(感動)

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とりあえず手前から順に見ていきましょう。建物は背面両端が張り出した「コ」の字に近い平面で、こちらは背面向かって左手の張り出し部です。

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この部分の1階はかつての手術室とのこと。部屋の三方に大きな窓を構えており、自然光を多く取り入れるには適した配置です。照明器具が発達していない時代ならではの工夫といえます。

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背面中央、2か所の張り出しに挟まれた凹部。ここはかつての洗い場で、井戸と勝手口の跡(写真)があります。

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洗い場に面した窓は実に多種多様です。形は矩形とアーチ、構造は上げ下げ・両開き・引き違い式、さらには縦横の寸法といった具合で、各面・各階で異なる6種類の窓が混在しています。

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続いて、旧院長宅と続きになった背面右手の張り出し部。接続部分の手前を半円形に突出させ、さらに2階平面の半径を若干狭めることで、大小2つの円筒を積み重ねたような特異な外観を呈しています。

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突出部1階はかつての応接間。また1階屋上の小さなスペースはバルコニーとなっているようです。

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応接間のすぐ隣には住宅の玄関が設けられています。実は新館が増築される前は正面右脇に通用門があり、そこから医院の建物を回り込む形でアプローチしていたのだとか。つまり、この中庭はもともと住宅の前庭を兼ねていて、住宅へ出入りする人にとってはこちらが正面だったという訳です。

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中庭には腰回りにスクラッチタイルを貼った土蔵もあります。今でこそ外部から閉ざされた空間となっていますが、当初は人目に付くのを想定していたことが窺えますね。


<内部その他>

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内部も簡単に見ておきます。展示室となっている箇所は大幅に改装されているものの、その他は比較的旧状が保たれているようでした。

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玄関ホール。風除室の内側にはステンドグラスが嵌め込まれています(拡大写真)。

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ポーチの装飾と対応させてか、円柱の柱頭飾りやシーリングメダリオン*4 にもアカンサスの意匠。

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現在はホール左手に窓口がありますが、当初は正面が受付だったそうで、丈の低いカウンターが残っています。

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入って右手が展示室で、左手へ進むと階段があります。残念ながら2階は立ち入り禁止となっていますが…

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曲がって奥にある旧応接室は、有難いことに休憩室として来館者に開放されています。

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木材を用いた温かみのある床・壁。天井の装飾文様も美しいです。

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また、旧医院にあったトイレが使用されていない関係で、住宅側にも少しだけ入れます。外観は全くの和風でしたが、階段手摺やトイレ外側のタイルには洋風の意匠が見られました。

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最後に、左側面。

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去り際にいま一度建物を眺めてみますが、ファサードの佇まいはやはり端正そのもの。この裏側に変化に富んだ外観が隠れていたとは…と改めて驚かされます。よくよく考えてみれば、表の顔は医院としての「公」、裏は住宅としての「私」といった具合に、公私の区別をデザインで表現しているのかもしれません。何にしても多彩な表情を備えていることには違いなく、今回の見学によって、個人的に直方でいちばん好きな建物となりました。

以上、直方谷尾美術館本館(旧 奥野医院)でした。


【脚注】
*1 福岡市に本社を置く食品販売会社。谷尾氏が直方市明治町で営んでいた精肉店を改組し、1972(昭和47)年に設立。現在は主力の食肉・加工品小売のほか、惣菜店・レストラン・スーパーの運営など、幅広い事業を手掛けている。
*2 イオニア式とコリント式の複合様式。
*3 外壁のうち、上下に重なった開口部の間にある部分。
*4 照明器具の取り付け部分に用いる円形の天井装飾材。シーリングセンターともいう。

【撮影年月】
 2015年8月、2016年3月

【参考】
『筑豊の近代化遺産』筑豊近代遺産研究会/弦書房/2008年
文化遺産オンライン > 直方谷尾美術館洋館(旧奥野医院)
直方谷尾美術館(公式HP)
 現地解説板

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