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2017/04/16 (Sun) 09:00

坑外施設(1)搬出

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今回は麻生山田炭鉱の坑外における生産工程のうち、搬出に関わる施設の遺構を紹介します。

この工程では、軌道と炭車が主な運搬手段です。まず坑内で採掘した原炭を炭車に積み、次に巻上機によって炭車を斜坑口から引き上げ、そして坑外の軌道を通って原炭ポケットまで運んでいました。閉山後にほとんどの設備は解体・撤去され、また長い年月を経て跡地は山林化しているものの、依然として各所に遺構が残っており、かつての一連の工程を辿ることができます。


【01】第一坑新卸 坑口・スロープ (画面右下のボタンをクリックすると新規タブ/ウィンドウで閲覧できます。以下同じ)

1961(昭和36)年に開坑し、67(同42)年の閉山まで稼働した第一坑新卸の坑口の遺構。開口部自体は閉塞のうえ埋め戻されていますが、坑口の頂部が盛り土から突き出す形で見られます。また巻上機へと続くスロープの跡には、炭車を牽引するのに使われたと思われる鋼索(ワイヤーロープ)や、軌道脇の斜面に沿った擁壁が残っています。


【02】第一坑新卸 巻上機台座

第一坑新卸巻上機の遺構。操業当時は出力800HP(≒600kW)の巻上機が据えられ、前述の坑口から原炭を積んだ炭車を引き上げていました。建屋(鉄骨造と思われる)と機械類は解体・撤去されて現存しませんが、鉄筋コンクリート造の頑丈な台座部分が残っています。斜面に張り出した巨大な遺構で、恐らく解体に手間が掛かることから閉山後も存置されたのでしょう。


【03】坑外軌道

斜坑内の軌道を通って引き上げられた炭車は、坑口を出て巻上機手前で折り返し、分岐する坑外軌道に入って原炭ポケットへと向かっていました。何本も敷かれていた線路は全て撤去されているものの、段状に分かれた実車線と空車線*1 の路盤や、路盤と原炭ポケットを結んだ桟橋の遺構が見られます。また生産工程に直接は関係しませんが、工作場からの資材搬入に利用されたと思われる「材料線」の跡には、松岩の組まれた大規模な切り通しが存在し、中々に見応えがあります。


【04】原炭ポケット

原炭ポケットでは上部に設置されたチップラー*2 を使用し、原炭を次の選別工程に移るまで一時貯蔵していました。閉山後にチップラーなど大半の設備は撤去され、また周辺の造成工事によって下部が土砂に埋もれているものの、鉄筋コンクリート造の大きな貯炭槽が威容を見せています。ちなみに槽は大小2つに分かれていますが、これはボタポケットを兼ねていたためで、小さな方には坑内ボタ(採炭の段階で弾かれたボタ)が貯蔵されていたようです*3


【05】第一坑本卸 巻上機台座

ちなみに先述の第一坑新卸 巻上機台座の付近には、操業当初に開かれた第一坑本卸の巻上機台座と思われる遺構も残っています。この本卸は出力200HP(≒150kW)の巻上機を有し、1958(昭和33)年頃に採炭を終えたものの、操業末期まで何らかの形で使用されていたようです。例によって建屋は撤去されていますが、建屋の屋根に使用されたと思われる大量の瓦が、台座の傍らに並べられています。なお、坑口は新卸とは異なり、ほぼ完全に埋め戻されていました。


【脚注】
*1 実車は原炭などを積んだ炭車を、空車は空の状態の炭車を指し、それぞれが通る線路を区別して実車線・空車線という。両線には高低差が付けられ、実車線で原炭を降ろした後に折り返し、下り勾配を利用して空車線へ自走する仕組みになっていた。その後、坑内に戻されて再び原炭を積み、坑外へ引き上げられて実車線に入ることになる。
*2 実車を固定して回転し、積み荷を落下させる装置。カーダンパーともいう。
*3 参考文献No.2に “硬は坑内硬、選炭硬共にそれぞれ75KWスキップで別個の硬場に捨てる” との記述があること、同No.1掲載の図でポケット付近より硬スキップが伸びていることなどから推測した。

【参考文献・リンク】
1.「炭車残炭掻取装置について」梶原喜雄
 ※『九州炭砿技術連盟会誌』1965年4月号(九州炭砿技術連盟)pp. 23-26
2.「松岩面積比15%以上介在する高田層本組炭層の採炭合理化の変遷について」麻生山田炭鉱採鉱課
 ※『九州炭砿技術連盟会誌』1967年6月号(九州炭砿技術連盟)pp. 2-6
3.『麻生百年史』麻生百年史編纂委員会/麻生セメント/1975年
4.『ひさやま・20年のあゆみ:写真集』久山町役場総務課/久山町/1976年
5.『久山町誌』上巻 久山町誌編纂委員会/久山町/1996年
津島軽便堂写真館 > 山野炭鉱の凸型機関車 3/4
カーダンパー(Wikipedia)

【撮影年月】
 2013年3月、2014年2月、3月、12月、2015年1月、2017年2月

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