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2018/04/14 (Sat) 09:00

杉乃井ホテル本館旧棟


杉乃井ホテル本館旧棟(仮称)
大分県別府市観海寺1/1959年/鉄筋コンクリート造地下1階・地上2階建
設計:光吉健次(九州大学光吉研究室) 施工:大林組

今回は泉都・別府を代表する大型リゾートホテル、杉乃井ホテルをご紹介します。宿泊棟の本館・中館・HANA館をはじめ、複数の大規模な建物から構成されていますが、当記事で取り上げるのはこちらの小さな部分。現在は本館の一部として扱われており、さしたる名称は無いようなので、便宜上「本館旧棟」と呼ぶことにします。

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本館旧棟は1959(昭和34)年4月の竣工で、設計は九州大学の光吉健次氏らが担当。また施工は大林組が請け負っており、以下のページに竣工時の写真が掲載されています(ページ内の画像が非常に多い上、名称が “杉井” となっているため、閲覧の際はご注意ください)。

主要竣功工事写真 ・昭和期(終戦以後)・(大林組70年略史)

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具体的な用途や建設の経緯までは確認できていませんが、杉乃井ホテルの大まかな歴史が『別府市誌』に載っていたので、以下に抜粋・引用します。

別府の宿泊施設といえば、かつて木賃宿(貸間業)がその主流であった。(中略)別府が湯治場から観光地へと変わるにつれて、旅館の占める割合が高くなり、いまでは、貸間業は鉄輪地区の一部に残るにすぎない。/(中略)/31年9月、観海寺の杉の井館が杉の井ホテルと改称したが、実質的には旅館で、名目だけのホテルにすぎなかった。/36年は、別府の旅館業界にとって画期的な年であった。この年3月、杉の井ホテルが6階建、64室の新館(現中央館)をオープンした。/(中略)41年1月、地上13階、地下2階の高層ホテル(西館)が完成、翌年の1月にはスギノイパレスもオープンした。/(中略)/引きつづきホテルとパレスの拡張にかかった。はじめ地上65メートル、20階建のホテルを計画したが、種々の事情もあって規模を縮小し、46年9月、地上14階、地下2階の東館が完成した。東館、西館、中央館をあわせて635室、2500人から3700人が宿泊できる。

※『別府市誌』(1985年)560頁より引用。“杉の井” の表記は原文ママ。

文中にある中央館・西館・東館は、完成時期と階数から判断すると、それぞれ現在の中館・HANA館・本館とみて良さそうです。肝心の本館旧棟については触れられていないものの、先述の通り1959(昭和34)年の竣工なので、56(同31)年にホテルへ転換してから間もない時期に、これら3館に先だって建設されたことが分かります。仮に、当初の用途が洋室主体の宿泊棟だったとすれば、別府におけるRC造ホテルとしては初期の事例ではないでしょうか。少なくとも現存する中では、かなり古い部類に入ると思われます。

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ちなみに現在の用途ですが、ホテルHPのガイドマップによると客室は存在せず、地階にカラオケボックス「八湯」と居酒屋?の「湯楽庵」などが入る程度。しかも、湯楽庵の方はマップ以外に全く情報が無く、既に営業を終了している可能性もあります。

恐らくはホテル内で最も古い建物なので、より新しい施設が充実した今となっては、あまり活用されていないとしても不思議ではありません。もっとも、館内に入って確認した訳ではなく、実際どうなのかは分かりませんが……。

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それでは外観をざっと見ていきます。水平性を基調とし、柱をほとんど見せずに窓を大きく取ったモダンなデザインですが、深い庇とそれを支える梁など、どことなく和風建築に通じる印象も受けます。竣工当時は旅館時代の木造の建物もまだ残っていたようなので、既存棟との調和を図ってのことでしょうか。

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バルコニーの欄干や地階の格子のデザインは、竣工年・設計者とも同一ということもあり、前回の浜玉市民センターのそれとよく似ています。ちなみに、同じく光吉健次氏らが基本設計を担当した福岡市庁舎新館(現存せず)でも、同様の意匠が用いられていたようです。

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本館の存在を除けば概ね原型を保っているものの、2階の窓が大幅に改修されており、当初の透明感がすっかり失われているのは少々残念です。ストリートビューを見ると2015~16年頃の改修のようで、もう少し早くに来ていれば……と悔やまれますが、時期的に地震の影響があったのかもしれません。こうして建物を見られただけでも良かったと考えるべきでしょうか。

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とはいえ、夕方だったために車の往来が多かったり、山際に立地している関係で想定より早く日が暮れたり、素晴らしいロケーションと心許ない柵のおかげで、終始へっぴり腰で撮影する羽目になったり……色々あって本当に「ざっと見」程度に終わってしまい、個人的に悔いの残る訪問となりました。そんな訳で、できればまた訪れる日まで残っていてほしいものです。


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▲杉乃井ホテル本館(旧 東館/1971年/RC-2+14/設計施工未確認)

最後に、現役の宿泊棟3館についても簡単に触れておきます。本館は先ほど引用した通り1971(昭和46)年の完成で、意外にも3館の中で最も新しい建物です。余談ながら杉乃井ホテルには13階が存在せず、12階の次は14、15階として扱われています。

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▲杉乃井ホテル中館(旧 新館→中央館/1961年/RC6、増築/設計施工清水建設)

1961(昭和36)年完成の中館。前掲書での取り上げ方から想像すると、設備・規模などで既存のホテルとは一線を画す存在だったのでしょう。内部は各階で本館と、5階連絡通路でHANA館2階と繋がっており、また客室のグレードは中館が最も高いようです。設計者は清水建設設計部(『新建築』1962年8月号)。なお、7階の増築や改修により、外観のイメージは多少変わっています。

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▲写真左奥が杉乃井ホテルHANA館(旧 西館/1966年/RC-2+13/設計施工未確認)

そして1966(昭和41)年完成のHANA館。恐らく当時の九州では破格の規模を誇っていたと思われますが、あいにく訪問時は完成年まで把握しておらず、こんな写真しか残っていません。ちなみに本館と同様に13階が無く、最上階は「RF」として案内されています。

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以上、杉乃井ホテルでした。


【撮影年月】
 2017年3月

【参考文献・リンク】
「光吉健次作品と方法 その2」 ※『建築』1968年4月号(中外出版)pp.75-90
『別府市誌』別府市/同/1985年
杉乃井ホテル > ホテル概要館内マップ(PDF)(公式HP)
杉乃井ホテル光吉健次(Wikipedia)
ホテルラベル > 大分のタグラベル ……ホテルラベルを収集・紹介されているサイト。杉乃井ホテルは本館旧棟と観海寺橋をあしらったもの、中館をあしらったものなど数点。

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