延岡総合庁舎

宮崎県延岡総合庁舎
宮崎県延岡市愛宕町2丁目15/1970年/鉄筋コンクリート造3階建+塔屋
設計:川島甲士建築設計研究所 監理:同左、宮崎県土木部建築課 構造設計:鈴木建築・構造事務所 施工:未確認
今回は延岡総合庁舎をご紹介します。宮崎県北部に位置する県内第3の都市、延岡(のべおか)市における県の出先機関を集めた施設で、1970(昭和45)年2月に竣工しました。現在も県税・総務、教育、土木の各事務所や農林振興局などが入居しています。
設計者は川島甲士建築設計研究所。同所は1960~70年代に宮崎県内で複数の施設を手掛けていますが、建て替えられたり施設そのものが廃止されたりして、現在はほとんど残っていないようです。このため以前紹介した宮崎県婦人会館(⇒記事)と並び、県内に現存する数少ない作品の一つとして希少な存在だといえます。
余談ながら、この建物が紹介されていた雑誌記事*1 には、同じ設計者による作品が他にも2件掲載されていました。そのうち鹿児島南警察署(鹿児島市/1969年完成)は既に建て替えられていますが、もう一つの多摩町役場庁舎(東京都/同年)は多摩市役所庁舎B棟として現役です。
庁舎は同市中心部の南側、JR南延岡駅から徒歩20分の距離に立地。近隣には県立延岡病院や、旭化成グループの工場などがあり、敷地周辺は幹線道路から少し入った住宅街です。ちなみに着工当時の新聞記事*2 によると、もともと一帯は農地だったようで、向かいの畑や整然とした区画にその名残が感じ取れます。
正面は南向きで、ほぼ東西に伸びる細長い平面構成。大きくとられた窓や耐震補強のブレースも相まって、どことなく小中学校を思わせる雰囲気です。ただ、腰壁を設けず開口部全体をガラス窓としており、校舎建築よりも開放感のある外観となっています。
向かってやや左寄りに設けられた正面玄関。低い石段にポーチを備えていますが、このポーチが中々特徴ある形状です。
地中に深く根ざした木のような支柱に、緩やかに弧を描く大きな庇が載っています。一見華奢ながら力強さも感じさせる造形です。
玄関左脇には「定礎」ではないですが、「宮崎県延岡総合庁舎新築工事記録」という石碑がありました。これによると着工は昭和44年1月25日、竣工は昭和45年2月28日とのこと。
※画像クリックで拡大
支柱下部と石段。ポーチ下の風除室は後年の設置と思われます。
見上げ。柱の窪みに竪樋が通されており、屋上排水に加えて各階の庇の樋も受けています。
耐震改修によって一部の庇が撤去されていますが、当初は柱・庇・樋が整然と並び、より端正さが際立っていたことでしょう。
右側面。増築された別棟(会議室棟)の陰になっていますが、簡素な文様が施されていました。
敷地東側、正門の門柱。
北東方向より、背面の全景。柱梁を表した正面とは打って変わり、灰白色のタイル貼り外壁となっています。
一見平凡なビルのようですが、2か所ある階段室の窓の仕上げ方がそれぞれ特徴的。後方に張り出した箇所はたぶん後設されたエレベーターと思われます。
表側に戻って、塔屋を遠望。円形の透かし意匠が印象的です。また余談になりますが、似た意匠が以前紹介したあの建物(⇒記事)にもあったため、これが一因となって「設計者が同じなのかも」と期待してしまったのでした。
敷地の一画にはテニスコートが2面。
十字路を挟んで反対側の公園より、旭化成工場の煙突を背景に。
両側に別館が増築されたり耐震改修が行われたりと、いくつか変更点も見受けられる反面、特色ある玄関ポーチをはじめ、当初のデザインが比較的よく残っていました。もっとも、宮崎県では南海トラフ地震への対策が課題となっており、庁舎の建て替えを迫られる日はそう遠くないかもしれません。できるだけ長く使われ続けてほしい、という気持ちも当然ありますが、ともあれ次の庁舎にバトンタッチするその日まで、現在の役割を全うすることを願いたいです。
以上、宮崎県延岡総合庁舎でした。
【脚注】
*1 『新建築』1968年11月号。記事末尾の参考文献も参照。
*2 記事末尾のリンクより、ブログ「延岡西高6回生66歳同窓会(事務局)」の記事を参照。
【撮影年月】
2017年9月
【参考文献・リンク】
「しんけんちく・にゅうす 延岡総合庁舎」 ※『新建築』1968年11月号(新建築社)p.89
◎延岡西高6回生 66歳同窓会(事務局) > 昭和44年2月(高1時)の記事から① まとめて<工事関係>
◎みやざき県庁職員日記 > 新緑満ちる愛宕山の見える事務所から
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