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2019/07/28 (Sun) 09:00

長崎市庁舎

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 今回は長崎市役所庁舎をご紹介します。JR長崎駅から程近いエリアに複数の庁舎が立地し、このうち本館は1959(昭和34)年の完成。各階に庇を巡らせた端正な外観で、簡素ながらも美しいモダンな庁舎建築です。しかし、庁舎が分散していて不便なことや、本館などで老朽化が進んでいることから、市は2016年までに新庁舎建設の基本計画を策定。近隣の市公会堂📷跡地へ機能を移転・集約するという内容で、22年度内の竣工を目指しています。

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※Google マップより引用・加工(クリックで画面に移動)
■立地と配置 
 当記事では複数ある庁舎のうち、本館・議会棟・別館の3棟を取り上げます。国道34号線(市役所通り)を挟んで北側に本館と議会棟、南側に別館が立地。ちなみにこの「市役所通り」ですが、長崎の地名の由来とされる高台*1 の上を通っています。このためいずれの敷地も高低差があり、表通りから裏側にかけて低くなっています。
 議会棟は本館と同時期にセットで建てられましたが、敷地北側の低い方に正面玄関があります。その関係で館内の通路を介して議会側は2階、本館側は地下1階といった具合に、両棟で階数にズレが生じています。一方、別館は通り向かいの本館と対応し、横断歩道に加えて2階の歩道橋と、地下1階の通路で連絡しています。

■沿革 
 これら3棟の沿革を市の資料*2 から抜粋すると以下の通りです。本館の建設中には隣接する旧庁舎(現在の西側広場)で火災が発生し、竣工前に一部で供用を開始するなど、計画の変更を余儀なくされています。また別館は水道局庁舎として建てられており、当初は2階建てで敷地も半分程度でした。

年月日事項
1956 (S31) 08. -- 公募により設計図案を決定 ①
1957 (S32) 07.12本館・議会棟 起工
1958 (S33) 03.29旧庁舎で火災発生、後日解体
04. -- 本館 一部事務を開始 ①
09.13議会棟 完成(RC+4)②
1959 (S34) 04.01本館 完成(RC-2+5)
1961 (S36) 01.30別館 起工
11.15別館 完成(水道局庁舎、RC-2+2)
1966 (S41) 01.21別館 増築(RC-2+4)
1974 (S49) 03. -- 本館 北側に増築(RC-2+1)
1980 (S55) 03. -- 本館 上記部分に2階を増築
以下省略
①『新長崎市史:第4巻現代編』224頁、②『長崎市史年表』251頁

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■設計者 
 雑誌『建築文化』の記事*3 によると、本館と議会棟の設計者は古宮節二、梶外美男、奥山孝、藤元保彦の4氏。同記事では名前のみが列挙されていましたが、雑誌『建築界』の記事*4 に以下のような一節があり、4氏は郵政省の若手建築家だったことが分かりました。なお、古宮氏については後年同省を離れたようで、1966年に『建築雑誌』へ寄稿された記事*5 では肩書きが“アルス建築事務所”となっています。

 長崎の市役所は懸賞設計の結果一等当選の若い郵政省建築家グループによつて設計され、昭和34年に竣功した。庁舎は鉄筋コンクリート造地階1階地上6階建のコア・システムの庁舎建築で、窓の上部にコンクリートの庇を全面に回している。外部はタイル張りの落ちついた建物で、よくある建築設計事務所の設計のように、無理にりきんだところがなく、温健で好感を持たれる建物である。(後略)

※沢田英雄「けんちく風土記:長崎県の巻」、『建築界』1960年3月号10頁より引用。太字は引用者による。



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長崎市役所庁舎 本館
長崎市桜町2-22/1959年/鉄筋コンクリート造地下2階・地上5階建(塔屋3階)
設計:古宮節二、梶外美男、奥山孝、藤元保彦 施工:大長崎建設

 以下、3棟を個別に見ていきます。本館は桁行方向10スパン、梁間方向5スパンのラーメン構造で、柱梁をそのまま外部に表した上に庇を巡らせています。柱梁(当初は庇先も)はグレーの5センチ角、腰壁はアイボリーの15センチ角磁器タイル張り。こうした外観はまさしく郵政建築のスタイルであり、パッと思い付く事例では熊本中央郵便局📷(1962・S37/郵政大臣官房建築部)がよく似ています。
 ちなみに先述した雑誌『建築文化』の記事*3 によると、上階へ行くにつれて柱梁が細くなり、また階高は低くなっているとのこと。写真を拡大して見直したところ、1階の柱はタイルが横に14個並んでいますが、2~5階は13、12、11、10個と1列ずつ減っており、確かに段々と細くなっているようです。

(前略)本館は上層に向って逓減する柱梁をそのまま立面に表現しました。それに従って階高も順次低くなっています。この方法は、構造的に無駄がはぶかれて経済的であると同時に、外観的には上層部が軽く見えて、ほっそりとした感じになりました。これには震度の地域逓減も相当きいている様子ですが……。/全体を通じて仕上げは親しみやすい材料や色をえらんだつもりです。(中略)私共はこの建物がいつまでも、市民の皆様に可愛がっていただけることを祈ってやみません。

※古宮節二他「長崎市庁舎」、『建築文化』1959年7月号33頁より引用。“逓減”は次第に減ること。

 それから柱梁による表現自体や、上へ行くほど階高が低くなる点は、東京中央郵便局📷(1931年/吉田鉄郎)といった逓信省時代の建築にも見られた特徴です。流石に郵政省の建築家による設計だけあって、前身の逓信建築の系譜をも受け継いだ、正統派の郵政スタイルが地方自治体の庁舎で実現しています。
 実際、もしも予備知識なしで「これは長崎中央郵便局の建物です」と写真を見せられたら、恐らく多くの人は納得してしまうのではないでしょうか(私だったら「いかにもな郵政建築ですね」とか言っちゃうに違いない)。以前紹介したかんぽ生命福岡サービスセンター📄(1934/大蔵省営繕管財局)は「逓信建築にして逓信建築にあらず」的な存在でしたが、長崎市庁舎は「郵政建築にあらずして郵政建築である」のかもしれません。

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 館内の階段(許可を得て撮影)。1~5階が吹抜けになっており、1階の曲線や蛇腹状のギザギザが印象的でした。

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 背面。高低差の関係で地階が外部に面しており、正面からよりも大きな建物に見えます。1974年と80年に増築された部分は、比較的新しいためか庇が改修されておらず、当初のタイル張りをとどめていました。

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長崎市役所庁舎 議会棟
長崎市桜町2-35/1958年/鉄筋コンクリート造地上4階建
設計:古宮節二、梶外美男、奥山孝、藤元保彦 施工:大長崎建設

 続いて議会棟。本館より半年余り早く1958(昭和33)年に完成しました。表通り側の3階にも玄関がありますが、正面玄関は先述したように反対の北側にあります。もっとも、こちらの通りには路面電車が走っており、JR長崎駅にも近い位置であることから、裏側といった印象は受けません。
 そうした人目に付く立地というのもあってか、中々モダンな外観となっています。1階正面はポーチを兼ねてピロティとし、2階は庇とバルコニーを突き出して壁はガラス張り。議場の入る3、4階はほとんど無窓ですが、採光用の小窓が可愛らしい感じです。郵政スタイルを踏襲していた本館とは打って変わり、設計者の個性が発揮されている気がします。
 ちなみに内部は未見ですが、議場内は議員席がU字型に並び、全国的にも珍しい配置になっているのだとか。この形状を同市議会事務局は馬蹄に見立て、「バテイさん」なるキャラクターを制作して議会をPRしています。

長崎市│教えて!バテイさん~3分でわかる議会のしくみ~(長崎市HP)

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 本館との接続部分の様子。手前が議会棟1階のレベルで、階段の上にあるのが本館地下1階とつながる通路。そのまた先の階段は西側広場(本館1階レベル)へと続いています。この空間は庁舎に囲まれながらも意外に広々としており、ちょっとした中庭のような雰囲気です。

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長崎市役所庁舎 別館
長崎市桜町6-3/1961年竣工、66年増築/鉄筋コンクリート造地下2階建・地上4階建
設計施工:未確認

 最後に別館。設計者は確認していませんが、斜め向かいの本館と同様の外観となっています。4階建てなので高さは一段低いものの、桁行方向は本館を上回る12スパンで、そのぶん水平性が強調された横長のファサードです。ただし当初1961(昭和36)年に完成したのは、向かって右手5スパンの2階まで。後年の増築で随分と大きくなっています。
 上述の通り基本的には本館と同じ見た目ですが、玄関や塔屋などが若干特色ある造りです。玄関は穴あきブロックなどによる意匠が、塔屋は木枠らしき大きな窓がそれぞれ見られます。

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以上、長崎市役所庁舎でした。


【脚注】
*1 市役所北東の山裾にある諏訪神社付近から、南西の旧県庁付近にかけて伸びる細長い高台。かつては海に突き出した岬だったため「長か(=長い)岬」が訛って「長崎」となったとする説がある。17世紀には岬の先端に奉行所が置かれ、眼下の海に出島が築かれた。開港以来、周辺の埋立てと市街地化が進み、現代に至っている。
*2 市HPの長崎市庁舎建替に関する市民懇話会より、第1回会議の「別紙資料1」2頁を参照。
*3 「長崎市庁舎」古宮節二他 ※『建築文化』1959年7月号(彰国社)pp.31–35
*4 「けんちく風土記:長崎県の巻」沢田英雄 ※『建築界』1960年3月号(理工図書)pp.6–11
*5 「当選案から実施段階における諸問題:長崎市庁舎」古宮節二 ※『建築雑誌』1966年11月号(日本建築学会)p.615

【撮影年月】
 2018年5月、8月

【参考文献・リンク】
脚注などに挙げたもののほか、
『長崎市史年表』長崎市史年表編さん委員会/長崎市役所/1981年
『新長崎市史』第4巻(現代編) 長崎市史編さん委員会/長崎市/2013年
長崎市HP >庁舎・施設案内長崎市新庁舎建設事業
日本の超高層ビル > 長崎市新市庁舎

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