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2022/01/09 (Sun) 21:00

旧 かねしげビル


小倉北区魚町のビル(旧 かねしげビル)
福岡県北九州市小倉北区魚町2丁目3-19/1973年/鉄骨造4階建 
設計:葉祥栄、和久野博 施工:清水建設

 明けましておめでとうございます。今年最初にご紹介するのは、北九州・小倉の魚町銀天街に面するビル。1973(昭和48)年の完成で、当初はかねしげビルという名称でした。

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 設計者の一人は葉祥栄(よう しょうえい)氏。九州ゆかりの有名建築家ですが、個人的には1980年代以降のイメージを勝手に持っていました。一方、私の興味関心の対象はといえば主に70年代あたりまで。旅の途中で見かけたゆうステーション📷(熊本県小国町/1987・S62)や三角港フェリーターミナル📷(熊本県宇城市/1990・H2)はシンプルに面白い建物だな~と感じたものの、作品を積極的に訪れることはありませんでした。
 しかし、図書館で昔の『新建築』を見ていたところ、何と1974年1月号にこのビルが登場。不勉強で恐縮ながら、こんな時期から活躍されていたんだ!と驚きました。詳しい所在地までは書いていませんでしたが、ストビューで魚町銀天街を探してみると、あっさり現存を確認できて二度びっくり。そんな訳で昨年5月、初めて氏の作品を目的に足を運んだ次第です。

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 魚町銀天街は1951年、公道上では日本初となる全蓋式アーケードが設置された歴史のある商店街。4階建てのビルのうち、アーケード内部に面するのは1・2階のみですが、整然と並んだ丸穴が印象的なファサードとなっています。
 『新建築』掲載記事によると、素材は“プレキャストコンクリートポリウレタン”。当初は1階部分も同様の外装で、横20列×縦13段の割付けでした。コンセプトは、カラーのブラウン管で使用されるシャドーマスクという部材(多数の穴が空いた金属板)だそうです。

(前略)テレビのシャドーマスクは、一定の距離をもって、はじめて像として網膜に映るが、この一群の丸窓は、逆に、一定の距離をもって通り過ぎる人には、何らアイデンティティ以上の積極的意味をもたない。しかし、興味を少しでももった人にとっては、近寄って中に入って行かないかぎり、その好奇心を満足させるに十分なコミュニケーションがなされない。このような建築インテリアとアーバンランドスケープの接点における視覚的相互貫入(ヴィジュアルコミュニケーション)に、人間の明確な意志を必要とするようなシャドーマスクのコンセプトは、今後さらにその重要性を増すだろう。(後略)

※葉祥栄「かねしげビル」(『新建築』1974年1月号 pp.268–269)より引用。

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 完成当初は1階がブティックで、店内の階段を上って2階はコーヒーショップ(いずれも店名は不明)。そして3・4階は事務所という構成でした。ちなみにググってみると、過去に(資)かねしげ商店という会社がこの住所にオフィスを構えていたようです。ビル名を踏まえると恐らく同社が建築主と思われます。
 一方で現状ですが、1階は「エコロ」というリサイクルブティックが入居。2階はレストラン「ジャポラマ」とバー「バロン」で、正面左手に専用の玄関を設けています。ただ、ジャポラマ&バロンについては閉業しているようで、テナント募集の案内が張り出されていました(2021年5月時点)。

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 気になるのはエコロさんの方ですが……冷やかしで入るのは気が引けるし、ましてこのご時世だしなあ、ということで内部は未見。もっとも『新建築』掲載写真と比較すると、だいぶ手が加えられているようです。
 もともと正面中央の玄関を入った先には、蹴上げ部分に照明を仕込んだ「光る螺旋階段」が待ち構えていましたが、現在は少なくとも外部からは見受けられず。またファサードの円形開口部は“法規上ミニマムの採光と排煙の面積を得るため” の丸窓でしたが、後に代替措置をとりつつ改装されたようで、内側から塞がれていました。

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 十字路の対角にあるビル「ウオマチヒカリテラス」より。側面(南側)3・4階は斜線制限のため斜めにカットされていますが、水平ルーバーによる“階段状のカーテンウォール” となっています。どことなく出雲大社庁の舎(島根県出雲市/1963・S38/菊竹清訓)のようなカッコよさ。ファサードの可愛らしい丸窓と好対照をなす、クールな表情を見せています。

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 最後に、再び地上より。2階の換気口?もちょっと面白いデザインです。

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 葉祥栄氏の初期の作品であり、しかも現存するものだと結構古いのでは?ということで、浮かれ調子で見に行ったこの建物。もしも予備知識なしで通りかかったとして、カメラを向けていたかどうかは正直自信がありません。ただ、いかにも著名建築家の作品である!といった雰囲気ではなく、さりげなく街並みに溶け込んでいる点も含めて、何とも惹きつけられる存在です。
 以上、旧 かねしげビルでした。それでは2022年もよろしくお願いいたします。


【撮影年月】
 2021年5月

【参考文献・リンク】


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