宮崎県文書センター

宮崎県文書センター(旧 宮崎農工銀行)
宮崎市橘通東1丁目9-30/1925年/鉄筋コンクリート造2階建
今回紹介するのは大正15年12月に宮崎農工銀行の本店として建てられ、第一勧銀などを経て現在は宮崎県の所有となっている旧銀行建築です。建物の名称としては「県庁5号館」が正しいようですが、県の公文書や歴史資料などを保存・活用する「宮崎県文書センター」として市民に開かれた施設となっており、記事の表題もそちらに倣った次第です。県道11号線に面し、宮崎県庁舎本館もすぐ近く。
軒部分・腰壁・窓廻りを石材で仕上げ、そのほかは明るめの煉瓦タイル張り。一見すると煉瓦造のような外観ですが、実際には鉄筋コンクリート造となっています。
玄関上の2階窓を挟む形でイオニア式のオーダーが一対用いられているほか、玄関部や上下の窓間などに装飾が施されています。それでも明治期や大正前期の建築に比べると、やはりややあっさりとした印象を受けますね。
建物は敷地ぎりぎりではなく道路から一歩後退して建てられており、歩道との境界にはこのような丈の低い柵が設けられています。
玄関石段。こちらも同様、ゆとりを持った足回り。
玄関庇の持ち送り。たぶん銅製。植物の蔓のような芽のような、はたまた打ち寄せる波のような渦巻き模様が素敵です。
玄関扉。これよりお待ちかねの内装見学です。内部の撮影は職員の方の了承を得て、堂々と行いましょう。
建物内部はそれなりに手が加えられており、正面玄関から入ってすぐの閲覧室は特に見所もないのでスルー。
抜けた先は建物北側の階段室。
見た感じでは改装が重ねられた各部屋よりも、当初の雰囲気を比較的良く保っていると思える空間でした(ただしこの照明器具は新しい物だと思われます)。
ここから2階へ上がります。
階段は大理石を用いたどっしりとしたものですが、手摺は木製でデザインもやや前時代的。
煉瓦造のイメージを引き継いだ外観とともに、この建物が大正から昭和へと移ろう過渡期の作品であることを物語っています。
階段側面の装飾。
2階。階段はそのまま屋上へと続いていますが、椅子を並べて入口を塞ぎ、赤いカラーコーンまで置かれてしまうと言われずとも解ってしまいます。
手摺の曲線美を撮るだけ。
椅子の手前から階段を撮るだけ…。
これより先は我慢です。
2階に上がってすぐにある部屋は、企画展示や講義に使用される多目的室。
大きな扉に寸胴なイオニア式オーダー(?)が一対と、何やら怪しげな雰囲気です。訪問時は「置県130年記念展」期間中のため部屋中展示物だらけだったので、室内の写真は改めて職員の方に許可をいただき撮影した以下の一枚だけ。
やけに高い天井と、部屋の隅に巡らされた古風な欄干。壁の向こうも部屋だというのに、なぜか設けられた大きな窓。この一枚の写真だけでは伝わりづらいかと思いますが、どこか不自然で違和感を覚える雰囲気です。
ここからは推測ですが、現在多目的室として使用されているこの一画は、かつて1階から2階にかけての吹き抜け空間だったのではないでしょうか。そして現在見られる床の大部分は、銀行としての役割を終えるにあたり、吹き抜けを埋める形で新たに設けられたもの。壁に沿う形で鎮座する格好になっている手摺は、恐らくかつての回廊の名残なのでしょう。
※参考画像
参考までに、他所の銀行建築から吹き抜け空間の画像を。鉄筋コンクリート造での事例は生憎ながら手持ちがありませんでしたので、煉瓦造の旧唐津銀行本店をご紹介します。
※参考画像その2
この角度だと分かりやすいでしょうか。二つ上の画像(mab037)をちょうど左右反転させたような構図になります。うまく伝えられたとは思いませんが、参考画像は以上です。
2階奥。正面が事務室、左側が先程の多目的室です。
天井の換気口(?)。
振り返る。
改めて階段。よくよく見ると階段室の構造が少し特殊ですね。
1階に戻って来ました。階段横には正面玄関とは別に、もう一つ出入口があります。
出入口から振り返る。内部の写真は以上です。
北側の外観。写真中央が階段室にあたる部分。
道路側からは目立ちませんが、こちら側からは屋上へと続く塔屋が確認できます。
道路寄りの隅に「定礎」の文字。年代は刻まれていませんでした。
西側。手前の駐車場は宮崎県教育会館跡地。
南側。
県道11号線から、同じく南側。
軒回り。
遠景。建物の写真は以上です。
現役の銀行ではないうえオープンな公共施設となっているので、内部までじっくりと見学できたいへん満足でした。また帰り際に資料を下さった職員の方は偶然にも自分にとっての大先輩であったという、一種のサプライズまで付いていたのです。そんな訳で2泊3日の宮崎市・鹿児島市ツアー初日に訪れたこの建物は、近代建築としての価値以上に自分にとって思い入れのある建物になったのでした。
宮崎市の残り2件は、ささっと終わる予定です。
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