サンビル

サンビル
福岡市中央区天神4丁目1-18/1959年10月/鉄筋コンクリート造6階建
今回ご紹介する物件は、天神4丁目の日銀の裏にどっしりと建つサンビルです。天神地区における1950年代のオフィスビルは他には西日本ビル(54年)と福岡証券ビル(58年)しか現存しておらず(註)、59年竣工のこのビルは稀少な存在といえます。ただし、外観や1階店舗部分はそれなりに手が加えられているようです。
(註)…竣工年がはっきりしないもの、私が確認できていないものは含みません。個人的には福岡日興ビルなんかも怪しいとは思っているのですが。
※グーグルマップより
赤色のピンで示したのがサンビル。大通りからは少し入った場所、細い道路が交わる交差点の角に建っています。
※グーグルマップより
航空写真で見るとこんな感じ。縮尺は先の地図と同じです。
※グーグルマップより
サンビルを拡大。交差点が鈍角となったおおよそ台形の建築面ですが、博多天神ビル(ヘンな名前だ)側には増築と思われる部分があります。道路側は一体化していますが敷地奥には妙な隙間があり、後付けした雰囲気が感じられます。
日銀の裏から見た様子。壁の仕様こそ統一されているものの、手前の横長窓が並ぶ部分と奥の部分では大分印象に差がありますね。
よく見ると境目と思しき箇所がはっきりと見て取れます。増築部と対照的な小さな窓は、塔屋から2階にかけて各階一つずつ配されていることを考えると恐らく階段室のものでしょう。
1階の大部分は店舗であり、ビル玄関は塔屋の直下にこじんまりとあります。この辺りは西日本ビルと似ていますね。
なおビル玄関の隣(増築部)には、ビル1階と2階の一部に入居する書店・書斎りーぶるの玄関が設けられています。同書店は“お客様自身が「参加」・「体験」・「交流」する本屋さん”をコンセプトに、菊竹金文堂(本社・久留米市)が運営しています。同社は1861年創業の老舗書店で、200m先のショッパーズ福岡専門店街(現・ノース天神)にて40年間にわたり大型書店「天神りーぶる」を運営していましたが、2011年7月末の専門店街閉鎖に伴い惜しまれつつ閉店。1か月の間を経て、同年9月にこの地で移転リニューアルオープンを果たしました。
現在の売場面積は400平米程度であり、移転に際して大幅な減床となったことになります。しかし天神地区は大型書店の激戦区であり、りーぶる移転の前後にもTSUTAYAが丸善の後継として福岡ビルに出店(同年4月)し、リブロも8年ぶりに岩田屋本店に再出店(同年11月)、またジュンク堂はMMTの地下1階に既存店を増床(同年12月)しています。このような熾烈な競争においては、全国規模の書店チェーンと同じような店舗ではいずれ体力差で敗れてしまう。そうした危機感から大型書店という業態を敢えて放棄し、「量より質」への転換を図ったのでしょう。最近ではAmazonという新たな脅威にさらされる書店業界ですが、こうした取り組みによって新たな顧客を獲得していけるといいですね。
話が逸れました。こちらがサンビルの玄関となります。レトロな銘板には「日進ビル株式会社」なる文字も刻まれていますが、軽く調べてもそれらしき企業はうまくヒットしませんでした。何らかの看板が掲げられていたであろう(※)、玄関上の金具。渦巻き具合が素敵です。
(※)コメントにてご指摘を頂きましたが、この金具は国旗などの掲揚に使用される旗受けの一種だそうです。その形状と設置場所から一部では「軒わらび」と呼ばれており、YouTubeで検索すると実際に使用されている様子を見ることができます。
それでは内部にお邪魔します。
入って右手の入居者案内。1階は書斎りーぶるとビル事務所のみ。
入って左奥が事務所。
そして、2階へと続く階段です。
木製の手摺は同時期のビルにはよく見られますが、赤い階段ってのは珍しいんじゃないでしょうか。私の記憶が正しければ、流石にカーペットではなかったと思うけど。
外に出ます。こちらは弁天橋方向の様子。こちらの側面も窓は少なめ。
この路地側がビルのファザードにあたり、書斎りーぶるの玄関もこちらの方が大振りです。
反対側が増築されるまでは、1階店舗の玄関はここだけだったのかもしれませんね。
1階交差点側の窓。この直線的な窓格子も、一見ありふれたデザインのようで実際はちょっと珍しいと思います。勿論、建造当初のオリジナル品だった場合の話ですが。
交差点からビル全体像。モルタル外壁は1階と2階以降で違ったパターンを採用し、前者は足回りのみグレーでまとめ水平ラインを施した白の壁面、後者は各階ごとにグレーの帯をまとったベージュの石積み風壁面となっています。またファザードでは2階以降が水平連続窓になっていますが、側面、とくに交差点側まで回りこんでおらず軽やかさはあまり感じられません。加えて6階建と比較的低層であることから、冒頭に書いたように「どっしりと建」っている印象を受けました。
このように道路側の側面は窓も少なくのっぺりとした外観ですが、そのぶん「サンビル」の表記や書斎りーぶるの看板が目立つ恰好になっているといえます。
写真のように、すぐ近くには第2サンビル(1990年竣工)なるビルもあり、新館のような役割を果たしています。本館というべき立場のサンビルは地階もエレベーターもない前時代的なビルですが、建て替えの話も聞かないのでこれからも天神の街に貢献し続けることでしょう。
以上、天神4丁目のサンビルでした。
コメント
ええと、玄関先の金具は旗受けじゃないでしょうか?
2014-01-19 14:51 jk URL 編集
jk様
恥ずかしながら私はそういったタイプの旗受けがあるということを全く知りませんでしたので、たいへん勉強になりました。あとで記事本文を修正しておきますね。
2014-01-20 01:05 博多人(本町3丁目) URL 編集